2022.12.12新連載:インタビュー【伊豆榮 土肥好美さん】上野で300年間続く鰻割烹。暖簾を守る誇りと未来への情熱

そこかしこに古い街並みや歴史スポットが残る上野エリア。美術館や博物館も多く、多彩な文化が生まれ、根付いてきました。今回スタートしたのは、界隈の魅力をより深く掘り下げるべく、街にゆかりのある人々にインタビューするシリーズ企画。第一回は、老舗の鰻割烹・伊豆榮の九代目で、女将として店を切り盛りする土肥好美さんにお話をうかがいました。

izuei_01.jpg本店前にて。江戸時代から続く伊豆榮の九代目女将・土肥好美さん

izuei_02.jpg「うな重 竹」4,400円(税込)。お吸い物、香の物付き

伊豆榮の始まりは今から遡ること約300年前、8代将軍吉宗の治世下。場所は、東叡山寛永寺の門前町として賑わう池之端でした。土肥さん曰く「創業者は武士。柄巻師(刀の柄に、補強や滑り止め効果を兼ねた装飾を施す職業)だったようです」。職業柄、刀を扱うことには慣れていたので、刀で魚をさばけたことがきっかけだったようです。

当時周辺は湿地帯で、川が流れ隅田川につながっていました。天然池の不忍池では良質な鰻が獲れ、ほとりに簡易な鰻屋が立ち並んでいたとか。元々は伊豆榮もそのうちの一軒。「柄巻師と、手頃な値段で鰻を提供する小さな店を兼業していたと聞いています」。

izuei_03.jpg伊豆榮の昔の店構えを描いた絵。看板に「江戸前 大蒲焼」とあります

戦争や震災、現代ではコロナなど、いつの時代にも苦境は訪れます。「それでもこうして続けてこれたのは、ひとえにお客様のおかげです」と土肥さん。戦時中には、戦災は免れたものの鰻屋としての営業はできず、「その間は旅館として祖母がなんとか続けました。タレだけは大事に守り、火入れを欠かさなかったそうです」。森鴎外や谷崎潤一郎ら著名人にも愛された味を今も楽しむことができるのは、こうした絶えない努力があったからなのです。

izuei_04.jpg店頭には、昭和の伊豆榮を再現したジオラマも展示

上野で生まれ育った土肥さん。子供時代を過ごした1970年代には、このあたりにもまだたくさん鰻屋が残っていたそうです。「昔は"江戸前"と言えば鰻でした。日本が誇るべき食文化として未来に残したい。上野から、発信したいです」とにっこり。その笑顔の奥からは、大きな地元愛と真剣さも伝わってきます。

伝統を守りつつ、多様なニーズや趣向に応えようと新しいことにも前向き。先代から日本料理も提供し始め、最近では「うな重」「幕の内弁当」などのテイクアウトも好評です。ANAの元 GH(グランドホステス)という経歴を持つ土肥さんの夢は「国際線のお食事メニューで鰻を提供すること」。また「食文化を継承するために、いちばん必要なのは教育です」と力強く語り、店の料理人を調理師学校に派遣し教えるなど、職人の育成にも力を入れています。

izuei_05.jpg言葉の一つひとつに、鰻割烹の女将としての誠意と矜持を感じます

看板料理の「うな重」はこだわりの結晶。頬張るとふっくらして舌の上でとろけ、焼き目の香ばしさがふわっと鼻に抜けます。砂糖を使わず江戸っ子好みに仕上げたタレは、キレのいい甘みがご飯の旨味と引き立て合い、「これだけでもごはんが進む」と評判。なお、蓋を開けた一瞬キラッと光る照りが美しく、思わず目をみはるほどです。

izuei_06.jpgタレに砂糖を使っていないので、蓋を開けると照りが一瞬で消えるそう

使われているのは、三河一色産のブランド鰻「三河鰻咲」。「オリジナル飼料を開発するなど、研究熱心な生産者さん」と土肥さんが惚れ込みました。大切に品質管理された鰻の魅力をぐっと引き出すのが、300年間引き継がれてきた職人の技術です。

izuei_07.jpg最上階の7階は壁一面が窓になっていて、上野公園を見渡せます

izuei_08.jpg7階から見た景色。不忍池に弁天島が浮かんでいます。春は桜、夏は青々とした蓮の葉が広がります

インタビューの最後に「上野は文化の宝庫です」と案内されたのは、伊豆榮 本店の最上階に当たる7階。不忍池を眺望でき、「東叡山寛永寺や上野東照宮など、徳川家が残してくださった財産を借景としてお借りしています。夜にはライトアップされた辯天堂がきれいです」。土肥さんが「街のお役に立てれば」と上野の歴史を熱心に語る姿が、とても印象的でした。

ちなみに、コンサート用としては日本最古のパイプオルガンがある旧東京音楽学校奏楽堂や、甘味処のあんみつ みはしも土肥さんおすすめのスポット。鰻を食べた後はぜひ、あんみつ みはしで土肥さんお気に入りの「白玉クリームあんみつ」を。上野の今昔に思いを馳せながら、のんびり散策をお楽しみください。

伊豆榮 本店
住所 東京都台東区上野2-12-22
TEL 03-3831-0954
営業時間 11:00~21:00(L.O.20:30)
定休日 無休
http://www.izuei.co.jp/(外部サイトへリンクします)

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