
知る
2022.05.09
上野の旅館業は、上野の街の変遷と共に変化してきました。90年以上に及ぶ歴史を持つ上野ホテル旅館組合の組合長・渡辺定利さんに組合の創立時について紐解いていただきました。
山田:上野ホテル旅館組合の4代前の組合長はお父様だったそうですが、組合の創立自体は、いつ頃なのでしょうか?
渡辺:私は組合長になって2年になりますが、実は創立時のことはわかりませんでした。この取材の話をいただいたのをいい機会と思い、事務所に埋もれている古い資料をいろいろ探してみたんです。それでわかったのが、組合の創立は1923(大正11)年2月。井筒屋という旅館の当主・中村倉太郎さんが初代の組合長でした。実はそれが上野中央通り商店会会長をされている中村明彦さんのおじいさんだったのです。
山田:それがわかったのは、どうしてですか?
渡辺:たまたま先日、明彦さんと話す機会があったので、私が見つけた「駅前旅館風雪百年」という上野ホテル旅館組合の元組合長の霜鳥貞治さんがお書きになった記事をお見せしたところ、そこに載っていた写真を見て、「これ、うちだよ」と(笑)。太平洋戦争前の上野山下口周辺を写した写真に、「旅館井筒屋」の看板がちらっと写っていて、それで判明したわけです。中村さんのところが、なぜ「井筒屋」なのかというと、中村家の家紋が「角立て井筒」だったからで、それを屋号にして旅館を営んでいたそうです。大正12年6月に皇太子殿下御慶事記念として発行された「伝家宝典 下谷総覧」という資料にも掲載されていて、そこに載っているメンバーで総会の締めを行ったとの記載もありました。この総覧が刊行された同じ年の9月1日に関東大震災が起こって、上野一帯は壊滅的な打撃を受けたそうです。
山田:長い歴史がある組合なのですね。
渡辺:今年で95周年になります。今年の組合の総会で話を進めて、来年には周年行事をやりたいと考えています。
組合の例会は年に数回開催していますが、主に保健所関連の情報、例えばノロ対策や新型インフルエンザなどについての講義的な内容です。保健所の一斉検査については、職員と各店舗を回って、一つ一つチェックするなど、旅館業法に照らした確認活動も行っています。消防に関してですが、対象となる組合加盟の施設は、東京消防庁上野消防署認定「表示基準適合マーク」を受けており、さらに「優良防火対象物認定証」を取得している施設もあります。年2回以上の避難訓練、非常設備装置の日常点検等を実施することにより、宿泊者の安全に留意しています。ホテルや旅館が個々でできることというのは限られますが、組合としてみんなで集まって、ある程度の規模の組織になれば、いろいろな形での活動が可能になります。清洲橋からこちら側には、上野ホテル旅館組合と上野公園組合、浅草ホテル旅館組合、城北旅館組合の4つの組合があって、それぞれが地域に根ざした活動を行っています。その一つ上の上部組織として台東区役所が創立して民間に移管した台東区ホテル旅館協会があり、さらに東京都ホテル旅館生活衛生同業組合、その上には全国組織もあります。
[第2回:上野の旅館業の変遷?その1]
[第3回:上野の旅館業の変遷?その2]
[第4回:上野の変化とともにあるホテル旅館業]
[第5回:2020年東京オリンピック後の上野に向けて]